8/02/2009

お役目ありがとう


心がつぶれるとは今の私達の孫娘、彼女の状態をいうのかもしれない。
哀しみの重さでつぶれた心はひび割れて、その修復は如何したらよい物かと廻りはオタオタとするばかりで、実際のところは何も出来ないで、その哀しみに暮れる姿を見ているしかない。
最愛の恋人と死という形で別れなければならないこの状態を、どの様な世のルールと教訓とを以て、彼女に納得せよとしようものか、私にはそのすべを知らない。
18才間近のこの夏は、彼女にとっては悪魔が来たりて、彼女の目前から彼を奪い去ってしまったとしか言えなかったのだ。
が、その彼のご家族が神の場所としての教会で神の愛を教え伝える人達であった事が、その暖かい心に救われて、今はその一人子の息子が神の思し召しを真っ先に受けたのだと知る事で、彼女の心は少しずつ癒えていっているようなのが、私には何よりもの救いなのだ。
悪魔に連れ去られたのではなく、神が彼の善業を讃え、そしてたった21才という若さで彼を神のホーン奏者としてその腕を高く表し、迎え入れたのだと彼の両親、そして祖父母、親族一同がそう信じているという。
無宗教者の私達にはその理解にかなりの辛い物を感じてはいるものの、愛に満ち溢れるこのご家族が、彼女を娘同様に迎え入れてくれている事が、私達が彼女に与えられない何か、その欠けた一部を満たしてくれているのであると感謝する気持ちこそあれ、何ら不都合や迷惑を感じている訳ではないのだ。
交際中は一夜とて彼等がどちらかの家に寝泊りするなどという事が全く無かった二人であったが、彼亡き後の一週間程を彼のベッドで寝起きする彼女が、今は哀れと思う私なのである。
彼のご両親は言ったという。「貴女の気が済むまで彼とお話なさい。そして彼が今、心安らかに貴女を見守っているという事を感じたら、将来に向って明るく先を進むのですよ。過去の思い出に縛られる事なく、自分の幸せに向って、哀れみや哀しみが貴女の将来の道を曇らせる事がないよう。貴女の幸せを願って彼が空からラッパを吹いてガイドしてくれるに違いありませんから。それが私達の息子なのです。愛とは過去に留まる事ではありませんよ。愛は今、現在、その時、その時をどうやって将来に繋げていくかと云う事だと思います。」
もし、この言葉を私が彼女に言ったとしたら、彼女の思いはまるで違う受け止めをしただろう。
自分達の最愛の息子を喪った、そのご両親の言葉だからこそ、彼女の心の痛みはそのご両親の痛みと同化して、それを超えた大きな広い心と愛情に包まれたに違いないと私は確信したのだ。
「家族皆が私を愛し、心配してくれているのは充分に解っているのに、何故か家にいると、独りぽっちになった気がしてとても哀しいの。なのに、学友達と一緒だったり、彼のご家族と一緒にいてまるで日常生活での無駄話をしているとしても、心が少し楽になるようで、哀しみが薄れていくような気がする。」
新学期が始まるのは3週間先だ。その時までは、好きにして、自分の心の整理が出来る事を願っている私達である。
私と夫が彼女の誕生から今までを親代わりとして暮らしてきたから尚の事。
この世ではご縁が短かったマイルズ君、しかし貴方のあちらでのご活躍を貴方のご家族、そして私達の孫娘の将来を通して知る事となる事でしょう。
私がこの世を去る時が来ても、大丈夫、その時は彼のラッパ音色が高々鳴り渡るのがこの私にも解り、そして私は微笑んで天に昇って往くのだろうと、孫娘はその時、慌て哀しむ事無く、事を迎え得る事ができるはずだと、思うのです。
その事に於いても彼女の亡き恋人のマイルズ君、貴方の大事なお役目に心からありがとうと言わせてください。どうぞ、その時には宜しくお願い致しますね、と私は心で彼に手を合わせたのである。