4/18/2008

心の買い物籠

何かお探しですか?

一週間に一度はセールの宣伝紙からクーポンを手に、店内をふら~っと品探しをしている頭に白いシャワーキャプ式ターバンにパジャマ風家着姿の老婦人が現れる。
私が側まで行って「何かお探しですか。お手伝いいたします。」と言うと、ちょっと驚いた目を向けてから「これ、このクーポンにある石鹸はどこかしら」と遠慮がちに聞かれた。
「それは、次の棚にありますので、ご案内いたします」と私。
その石鹸といつも買われているらしいジェローの箱をもってレジスターに来られた彼女が、私の顔をまじまじと眺めてから言う。
「実はね、いつも余り体調が良くなくてねェ、今日はやっと外出できたのよ。癌なの。独り暮らしなので生活品が切れたときに丁度娘が遊びに訪ねてくれた時だと、娘に買い物を頼むのだけれども、彼女は隣町に住んでいて自分の子供達との生活がとても忙しくて、気の毒だから、なるべく自分の事は自分でと思っているんだけれど、今朝はちょっと大変だったの。」
よっぽど誰かと話をしたかったものか、体調が悪いといいつつも私に話す時間が長くなっている。
いつも来店すると若い店員達はそ知らぬ顔で、応対も悪く、探す品を見つけるのに右往左往していたのが、今日は声をかけられて驚いてしまったのだそうだ。
その後、私の勤務時に合わせて来店するようになり、先ず私の所で自分が購入したい品のクーポンを見せて私の案内を受けてから買い物をするようになった。クーポンの隅にペンで『前棚7右中』とか『後壁棚右下』とかを書き込んでからそこへ向かうのである。
そして会計の際は必ず自分の体調や日常の出来事を手身近なりに報告してお帰りになるのだ。

ある月曜日の午後の事、その日は私のカウンターに先に寄ることもなく自分でさっさと必要品を見つけることができたらしく、例のターバン姿ではあるが、何か以前とは違う明るい笑顔に輝きを見た。
「あのね、いつからかこの頃はずっと体調が好調でね、先週お医者様に言われたのよ。癌がどこにも見当たりませんって。それでね、娘家族と友人達が私に完治パーティーを開いてくれるのよ!」
細くて真っ白い顔面には頬が赤みを指し、目が輝いており、今までの憂鬱顔が笑みで体中が明るさを加えているのが見て取れたのである。
「おめでとうございます。良かったですね。見るからにお体の様子が完治されたことを表しているようですね。それは楽しいパーティーになる事でしょうね。本当にお幸せで私も心から嬉しいです。」と応えた私に彼女は細い両腕を広げてカウンター越しに私の顔を引き寄せ、頬にキスをしたのでした。
その後娘さんと一緒に来店して、楽しそうに買い物をなさっていたのを何度が見かけた。その度に私を見ると手を振り笑顔で『今日も元気よ』のサインを送ってくるーあの数ヶ月前の憂鬱顔がまるで嘘のように。
良かった。そんな日は家族や友人達の愛情には過酷な病状をも伏せてしまう力があるのだと確信出来るのである。彼女の探していたのは何よりも、そういった廻りの愛情だったのかもしれない。
ところで貴方は何をお探しですか?